てんせいじんごっこ.blog

うさぎドロップの結末が気持ち悪いと言うけれど…

宇仁田ゆみ原作の漫画「うさぎドロップ」の結末、最終回が「気持ち悪い」という意見がある。分からないでもない。うさぎドロップが掲載された月刊誌FEEL YOUNGは、10代後半から20代の女性が購読者の中心。お父さんのパンツと自分の下着を一緒に洗濯するなど有り得ない。父親の加齢臭が生理的に受け入れられない。そのような人にとって、りんの「ダイキチと結婚したい」「ダイキチのこども産みたい」と言う姿には共感出来ず、違和感を覚えるのは当然だろう。ネットで検索すると、この結末に肯定的な意見には「まいんちゃん育成成功」と言っている変態の発言も目立つ。要するに、この結末を受け入れられない読者の頭には「近親相姦」や「ロリコン」という概念が付随しているんだと思われるけど、作者が伝えたかった結論は、そこじゃないと思う。つーか、そこじゃない。なので、そこについて僕の意見を今更だけど書いておきたいと思った。

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うさぎドロップはアニメ化されたり実写映画化された前編と、後編は16歳に成長したりんの姿を、中学生時代、高校卒業という時系列を交えながら描く二部構成になっている。前編は、独身貴族を満喫していたダイキチが突如6歳の女の子の保護者となり子育てに奮闘する日常が微笑ましく、実際に母親である宇仁田先生が描くりんやコウキが可愛く愛おしくてたまらない。そして原作者が前編に込めたメッセージは、結婚や離婚、シングルマザー、シングルファザーにとっての実状、倭国社会の現状などなど、誰が読んでも共感出来る内容が切実に描かれている。だから人気を呼び映画化され、アニメ化されたのだ。そんなことは今更語るまでもない。だけど、アニメうさぎドロップの続編は制作されない。10年経った今でも、その予定はない。うさぎドロップの後編は中盤辺りから雲行きがあやしくなり、意外な結末を迎える。連載当初から定期購読し、りんやダイキチと共に歩んで来た愛読者は「作者に裏切られた」と叫び、最終話を「気持ち悪い」と拒絶した。だからアニメの2期を作っても収益は望めないのである。非常に残念だ。いい話なんだけどね。気持ち悪いと言われているのは、りんなのか? 作者なのか? たぶん、ダイキチだろう。でも、僕にとっては、麗しいコウキママに抱きついたダイキチの横顔の方が数倍気持ち悪いんですけど。

僕の年齢は、原作者の宇仁田先生より少しお兄さんという感じ。当然ながら連載漫画を読みあさる歳でもなく、そのような職業でもない。アニメうさぎドロップを観たのは放送当時。今から10年くらい前。その後も何回か繰り返し観ていた。で、最近になって続編が気になり検索したら、Googleの「よく似ている検索」に「うさぎドロップ 気持ち悪い」「うさぎドロップ 作者 死亡」と出る。なんで? 宇仁田先生、生きてますよ? 陰謀論なのだろうか? 炎上したのだろうか? やたら気になった。なので、単行本を大人買いして一気読み。それが功を奏したのか、僕がオジサンだからなのか。いずれにせよ、気持ち悪いという感想には至らなかった。そんで、10巻の終わりに掲載されたインタビューを読んで、なんとなくだった感想が確信に近いものに変わった。その中で宇仁田先生は「着地点は最初から決めていた」と申しています。コレ「作者が欲を出した」とか「血縁無いはこじつけ」などと言う読者に対する火消しのようにも受け止められるけど、そうじゃない。嘘じゃない。だって、最初から着地点決まってないと、ダイキチのキャラクター設定は不可能だ。仮にダイキチが、さやかちゃんのパパみたいなイケメンだと、なんかモヤモヤする。メガネのデブだと、キモヲタみたいになってしまう。顔はイマイチだが長身で、元野球部の体育会系。中国語も話せるバリバリの営業マン。女子供は苦手だが、心優しい大人の男性。不器用だけど誠実な人。そんな感じの俳優さん、昭和に居たなぁ…。

うさぎドロップのストーリーを昭和の脳ミソでイメージすると、「パパと呼ばないで」と「おくさまは18歳」を合体させた感じ。どちらも高視聴率を叩き出した人気ドラマで、何回も再放送された作品。我々の世代なら、知らない人は居ないはずだ。その両者に共通するのが俳優の石立鉄男さん。「薄汚ねぇシンデレラ」のアレじゃなくて、「水もれ甲介」に見るような、ドジでマヌケでブサイクだけど「心が熱いアンチャン」的なソレ。この石立鉄男さんのイメージをもう少しカッコよくすると、中村雅俊さんが思い浮かぶ。そのイメージが、ダイキチにピタリとハマる。お分かり頂けるだろうか? 若い人には、無理だな。要するに、「いい男」ってヤツですよ。で、そんなダイキチとりんの年の差婚を考えると、もっと古い時代の「許嫁制度」が思い浮かぶ。最近描かれたドラマだと、連続テレビ小説「あさが来た」が記憶に新しい。この許嫁という親同士が決めた政略結婚のような話だと、「幼稚園の年長さんと大学生が将来結婚します」「小さかった頃は優しいお兄ちゃんが沢山遊んでくれました」みたいな話は普通にありましたそうな。なので、りんとダイキチの結婚は、すんなり抵抗なく受け入れられたりする。

さて、そんな昭和なダイキチに対して、りんちゃんはどうでしょう。後編の冒頭でダイキチは「お前はアレだなー。ナリはアレだけど、中身はおばあちゃんみたいだなー。朝っぱらからシャンとしやがって」と悪態づく。その背筋伸ばして正座する姿見て、ピンと来ました。りんのその名は、リンドウの「りん」なのですが、凛とした「りん」でもある訳です。その容姿は松本零士さんが描く女性、メーテルのような、北欧の金髪美人のような美しさ。身長169cm。スレンダーなモデル体型。ふくらはぎパンパンな女子高生からすれば、憧れの女性像です。そしてその中身は、宮崎アニメに登場する女性のような、風の谷のナウシカのように、清く正しく美しい女の子。迷惑メールに困窮し、出した答えが「これ、要る?」だ。これは強い。その後、中高生のマストアイテム携帯電話(今ならスマホ)を川に投げ捨てようとする。その後姿に惚れる。紅璃先輩に対して敬語で論破する。でも、彼女なりの生きる強さには敬意を払う。宮本武蔵だな、この人。

うさぎドロップの殆どの女性読者は、少女漫画を読んで来ている。恋に恋する少女達は、付き合う別れる告白するで揺れ動き、頬を赤く染めながら大きな瞳に涙があふれて、キラキラふわふわ輝いている。なんか色々飛んでいる。柔らかそうなのが、いっぱい浮かんでいる。だけど、16歳のりんは涙を流さない。たくさん泣いているのだけれど、その泣き顔を絶対に見せない。作者はあえて、りんの泣き顔を描かない。パヤパヤしてる麗奈は、典型的な少女漫画の登場人物。そんな麗奈が、りんの姿を引き立てる。紅璃先輩の生き方は、りんの強さを浮き上がらせる。恋に恋しない鹿賀りん16歳。うさぎドロップは少女漫画に対するアンチテーゼなのだろうか。宇仁田先生は今を生きる女子達に、なにかを伝えようとしているぞ。そういえば、アニメで丸ごと削除された仕事に恋に結婚に不真面目な新入社員の織田さん、あんな女がバブルの頃にはウヨウヨ居たな。少し昔に給食費払わない母親達が問題になったけど、アッシー君だのメッシー君と言っていたあいつらが、そいつらだ。チョット前には「男が奢るべき論争」てのがあったけど、男尊女卑だの女性蔑視だセクハラだと文句を言うなら、都合よく女を使うなと問いたい。私情が混じって少し話が逸れてしまったけど、うさぎドロップを少女漫画の延長線で読んではいけない。そうすると「月刊漫画ガロ」を読んだ後のように、迷宮に入り込んでしまう。うさぎドロップの結末にSEXを持ち込んではいけない。そうすると、たちまち誤読する。ダイキチはコウキママと、りんはコウキと結ばれれば良かったのにと不平不満を言ってはいけない。それって、あなたの願望ですよね。そういう人は、最初の1話から読み返してみて欲しい。りんの気持ちも考えず、自分達の都合ばかり考えていたダイキチの親戚連中。あなたは、その人達と同じではありませんか? 受け入れられないからと言って、捨ててしまうのですか?

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小さい女の子が「大きくなったらパパのお嫁さんになるの」と言うその感情に、SEXなど存在しない。お父さんとは結婚出来ないんだけど、その気持には、なんの矛盾もない。本当にパパが好きなだけだ。周囲の人もパパも「可愛い」と言って笑っている。そのことを気持ち悪いと言う人なんて誰も居ない。その子にとって父親は、自分の気持を分かってくれる人。自分のことを、ちゃんと見ていてくれる人。優しく大きく暖かく包み込んでくれる確かな存在です。で、この言葉、りんが最終回で実際に「小さい頃おじいちゃんと結婚するつもりだった」と述べている。だけど、思春期の娘は父親を嫌う。臭い汚いと拒絶する。残酷だ。倭国のお父さん、かわいそう。

私達は家族や親族を語るとき、血の繋がりを考えます。だけど、家族は他人と他人が結婚しないと生まれません。そう、家族の始まりは、他人からなんです。人は幸福を望んで結婚し子を育て、家庭を築きます。だけど、それがなかなか上手く行かない。そこに想うのが、りんの存在。おじいちゃんに育てられたので、玄関での靴の脱ぎ方から食事の作法まで、厳しく躾けられている。好きなお菓子は野菜カステラ。市民プールでは、おばあちゃん友達と雑談。一見笑えるエピソードだけど、ここに意味がある。この人、古い倭国人です。古い倭国の貞操観念。「一生に一人の男性だけに添い遂げる」という考え。それは男性から押し付けられた「純血」ではなく、女性から見た「純愛」という考え。これを前面に押し出してしまうと、説教じみてカビ臭くなるから作者は描かない。僕も書いててケツの座りが悪い。でも、そういう美学は確かにある。りんはコウキに抱きしめられ「そっち側は たのしい・・・?」と言う。この「そっち側」とは、どこだろう。たくさん恋をして理想の人と巡り合う。それが今の主流だけど、我がままになってやしないか、それで自分本位になっていないだろうか。俺物語!! の「結婚してくれ!!」「はい!!」は痛快だった。そういう理想は、確かにある。大和撫子ここに在り。

うさぎドロップには様々な形の家族が登場し、それぞれの問題が浮き彫りにされて行く。それが緻密な心理描写、節々に記された印象的な言葉の数々で描かれている。女性漫画家が描く秀作は、読んでいて本当に楽しい。かなりしっかりしたストーリーボードと人物相関図を作らないと、この漫画は描けないと思う。「ラストが駆け足で終わった」と言う読者の感想が多いけど、クライマックスとはそんなもの。あえて急転直下にしてあるんです。うさぎドロップの結末は最初から決まっていて、その着想はシンプルなものから始まっているのかもしれない。うさぎドロップは宇仁田ゆみ版「あしながおじさん」なのかな。悲しい別れのない「鶴の恩返し」なんだろうか。常識やタブーを打ち破るりんちゃんは変態ですか? ダイキチはロリコンでしょうか? うさぎドロップは表面上、ライフスライスやラブストーリーに見えるけど、そのストーリーの根幹は、もっと深いところにある。

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それにしても、やはり最後まで問題となるのがダイキチだ。りんにグイグイ迫られても、カメラ目線で読者の視線を気にしている。40過ぎの、そいつと俺を行ったり来たり、自問自答を繰り返す。母ちゃんに、なんて説明したらいいか悩む。耳の後ろを死にものぐるいで洗う。りんは「高嶺の花」だと決め込んでも、しましまパンツで締まらない。こうして読むと、うさぎドロップは最後の最後まで笑える。泣ける。うさぎドロップは予想外な結末を迎えたが、そもそもスタートが想定外なのだ。おじいちゃんの宗一が標したキンモクセイの道は、最初からここに繋がっていたのかもしれない。りんはダイキチの子供を産みたいと言う。「絶対にその子のことを幸せにするの、わたしみたいにね」と言う。その言葉にダイキチは報われ、涙する。たぶんダイキチは、その後りんに抱っこしてもらったんだろう。ダイキチが宗一の境地に到達するのに、半世紀の時は掛からないはずだ。覚悟して観念しろダイキチ。どうせお前には、りんを拒むとか絶対無理なんだから。二谷さんも、みっちゃんやナベちんも、出荷部の同僚も後藤さんも、ダイキチを知る人なら皆んな分かってくれるはず。ダイキチはダイキチでいい。心配ないよー。というのが僕の感想。うさぎドロップとは、そういう作品。じゃないとストーリーとしておかしい・・・と・・・思う。僕の考えは間違ってない・・・ハズ・・・。たぶん・・・。

九十九里のヘッドランドが抱える問題

南北を囲う海食崖によって養われて来た九十九里浜。その緩やかな弧を描く砂浜の汀線は、北側の屏風ヶ浦と南にある太東崎が荒波に削られ、そこで生まれた砂が沿岸流に乗って運ばれ形成されて来た。しかし、この南北の海食崖に護岸が築かれ、更には飯岡漁港・太東漁港・片貝漁港が海上に突き出し漂砂を堰き止めてしまい、砂の供給源を絶たれた現在の九十九里浜は、深刻な海岸侵食の危機にさらされている。

海岸侵食による著しい砂浜の後退は、2020年の東京オリンピックでサーフィンの試合が行われる千葉県長生郡一宮町でも起こっています。一宮では10基のヘッドランドと呼ばれるT字型の堤防で砂の流出を防ごうとしていますが、美しい九十九里の景観が人工物によって壊され、更にはヘッドランドの建設でサーフィンに適した波が減少したことも重なり、県が進めるヘッドランドを用いた海岸保全事業とその機能自体に疑問を抱いたサーファー達が結束し署名活動を行い、サーフィン・漁業・観光業・海岸保全に携わる地域住民などの他に専門家らを交えた「一宮の魅力ある海岸づくり会議」が発足しました。その話し合いの中、この会が発足する原因となった「サンライズ」と呼ばれるサーフポイントにある6号ヘッドランドの拡張工事に関して、様々な意見が交わされています。

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計画当初は6号ヘッドランドの先端に200メートルの横堤を造る予定でしたが、隣接する5号・7号ヘッドランドを同じ規模の構造にすると、サーフィンに適した波が立たなくなってしまいます。特に7号ヘッドランドの場合は6号との間隔が狭く、サーフィンが全くできない状態になってしまいます。現在この計画は一旦中止となり、今後どのような形状が望ましいのかが話し合われています。

会議では、現在6号ヘッドランドの先端部とテトラポッドの間に隙間があり複雑な流れが生じて危険なことから、先端部を丸くする・尖らせる・潜らせる・現行継続といった4つの提案がなされ、その内、先端を尖らせる案は意味が無いので却下。丸くする案は費用の面から実現は不可能。潜らせる案はシミュレーションの結果、現行法と同等の効果が得られると分かりましたが、結局は現行法のまま90メートルの幅で工事を行い暫らく様子を見ることで決着しました。

タンカー

現行

潜堤

潜堤2

出典:資料3 6号ヘッドランドについて.pdf

これらの案は、ヘッドランド先端にある横堤部分で強い離岸流が発生する問題を解消しよと考えられたもので、離岸流を向岸流で相殺させるアイデアです。沿岸に打ち寄せる波が高くなると、ヘッドランドの先端部周辺に発生する離岸流も強くなります。しかしヘッドランドの内側は波が穏やかで水深も浅く子供でも簡単に近づくことができ、そこに危険が潜んでいます。

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この画像は一宮の2号ヘッドランド横堤部分。ここでサーフィンをすると分かるのですが、黄色く塗られた場所は非常に浅くなっています。ところが、点線で示した辺りから急激に深くなっていて、その先には強い離岸流が発生しています。茨城県の鹿島灘では毎年、このヘッドランドの先端部周辺で複数の犠牲者が出ています。先ず急激に深くなっている所で溺れかけ、慌てて泳いで戻ろうとしても、離岸流に乗って沖へ流されてしまう。海上保安庁ではこの状況を「ヘッドランドの魔性性」と呼び注意を促しています。

そもそも子供達が集う海水浴場のすぐ近くに、このように危険な工作物が存在すること自体が問題ではないでしょうか。ヘッドランドを用いた侵食対策は国土保全のためであり、それは地域住民が安心して暮らせる環境を整える目的で行われています。そのために造られたヘッドランドが水難事故の発生源であるなら、そこには矛盾が生じてしまいます。ヘッドランドの建設費用には限りがあり、安価に効果を生むために、このような配慮にかけた欠陥が残されているのです。

ヘッドランドの先端に横堤を築くのには、2つの理由があります。1つは縦堤先端部が台風などの接近による波浪で崩れるのを防ぐため。もう1つは、横堤後方にトンボロを形成し、後退した砂浜の汀線を前進させるためです。ところが、九十九里の場合この方法は適切でないことが研究者の調査によって分かって来ました。

「一宮の魅力ある海岸づくり会議」に参加している海洋土木工学の専門家である宇多高明氏は、2015年に「侵食対策としてのヘッドランドの効用と限界」という論文を発表しています。その中から抜粋すると、

九十九里浜のように海浜砂が粒径0.2 mm程度の細砂により構成された海浜では,HLを波による地形変化の限界水深hc(わが国の外海・外洋に面した海岸ではほぼ10 m程度)より深い場所まで伸ばすことは,建設に多大なコストを要すること,またHL自体が大きな波の遮蔽域を形成して周辺海浜へ大きな影響を及ぼすことなどから実際問題不可能と考えられる.その場合,HLの先端水深をhoとすると,砂移動はhc以浅の水深帯で起きているので,ho~hc間ではHLの先端を沿岸漂砂が回り込んで下手海岸へと流出し,HL上手側の海浜に堆積している砂量は減少せざるを得ない.HLは沿岸漂砂の阻止を目的に造る以上,このことはHLの効用が失われることを意味する.

HLによる沿岸漂砂の低減効果は縦堤が長いほど高くなる.一方,横堤による沿岸漂砂の阻止効果は縦堤の場合より小さい.さらに横堤を伸ばしても時間とともに阻止効果は低下し,HL沖の通過沿岸漂砂量は時間とともに増大するという結果となる.

HLを造っても究極的には海浜の維持はできず,ただ侵食速度を遅くする効果しか期待できないことになる.これはHL工法を現場に最初に導入する際になされた「安定海浜の創出」の説明と矛盾する結果をもたらす.

細砂海岸において侵食が起きた場合,侵食対策としてHLを伸ばしても結局のところ長期的に見れば細砂の流出が続くので,侵食対策としてのHLは時間とともにその効用が低減する.これは単にHLだけでなく離岸堤などの施設においても同じ結果となる.細砂海浜の維持のためには,各種施設を造ってもあまり効果的でなく,流出砂量に匹敵する量の砂を半永久的に投入する以外方法がないことになる.これは細砂海浜で行われてきた侵食対策では究極的には養浜を永遠に続けない限り海岸保全ができないことを意味する.


出典:侵食対策としてのヘッドランドの効用と限界.pdf

と述べられています。要するに、「九十九里浜や一宮の場合、ヘッドランドで海岸侵食を防ぐことはできない」ということです。T字型のヘッドランドを構築した場合、その後方に伸びたトンボロがヘッドランド先端の水深を浅くしてしまい、砂の流出が発生してしまう訳です。画像の点線で示した急激に深くなっている部分は、その現象によって形作られたものなんですね。だとすれば、陸上と海上から砂を運び入れるサンドバイパス以外に、どのような方法で海岸侵食を防げば良いのでしょう。

構造物で侵食対策を行う場合ヘッドランドの他に離岸堤や人工リーフを使いますが、一宮は当初、離岸堤を用いて侵食対策を行う予定でした。ところがこの案は猛反対を喰らい、ヘッドランド工法に切り替えた経緯があります。そのため、一宮の2号堤脇には離岸堤が1基だけ残されています。一宮の隣いすみ市の日在浦では一足先に離岸堤で侵食対策を行いましたが、これによって嘗て「ドカリ」と呼ばれたチューブを巻く波が失われ、今では限られた僅かな場所でしかサーフィンができません。一宮では週末ともなれば県外から沢山のサーファーが訪れ、サーフィンを目的とした移住者も増え続けています。それに対して日在浦では、週末でもサーファーの姿はまばら。海水浴客も年々減少傾向にあり、経済的な恩恵に全くあやかれていません。

なにより、このテトラポッドで造られた離岸堤は美しくありません。近年、世界遺産に登録された場所や観光地では、このテトラポッドの離岸堤が撤去されています。ところが、この駄目だらけの離岸堤には優れた侵食防止効果があるようなのです。

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この画像は、台風による高潮と高波によって海岸の砂が侵食された日在浦の様子と、その後の様子。これ以前は砂の下に埋もれていたテトラポッドが全く見えない状態でしたが、一夜にして無残な姿になりました。しかし2年の歳月を経て、海岸の砂浜がここまで回復しています。この間、日在浦では砂を運び入れる養浜など全く行われていません。日在浦は自然の力だけで、ここまで回復できたのです。これと同じような現象が一宮で起こっていないとなれば、この問題は重大でしょう。縦に伸びたヘッドランドは、海岸が本来持っている沿岸流と漂砂による柔軟な回復力を阻害するだけでなく、堆積した砂を沖へ排出し続ける永久機関となる訳です。

だとすれば考えられる選択肢は2つ。ヘッドランドを全て撤去して元の状態に戻しサンドバイパスだけで侵食対策を行うか、テトラポッドの醜い離岸堤の代わりに潜堤方式の人工リーフを利用する方法です。しかし一般的な人工リーフの形状は長方形のものが大半で、この形状ではサーフィンに適した波が立たなくなってしまいます。そこで注目したいのが、近年研究が進む三角形状の人工リーフです。

主にデルタ型リーフと呼ばれるこの潜堤は、線で波の威力を減退させる従来の離岸堤に対して、面で波を砕く方式が採用されています。このデルタ型リーフの上で波が砕けると、サーフィンに適したAフレームの波が形成されます。また、海岸侵食を防ぐ離岸堤としての機能や津波の威力を減退させる機能の他、魚礁としての役割も兼ね備えています。

デルタ型リーフは従来の離岸堤に対して費用の面で問題が発生するかも知れませんが、このデルタ型潜堤でアウターリーフを構築した侵食対策によってサンドバイパスに費やす資金を軽減できるのであれば、長期的な目で見た侵食対策に掛かる費用を安く抑えることができるかも知れません。

ベイブリッジやレインボーブリッジは単なる公共物ですが、夜に光り輝くことによって人々を魅了する都市を作れ、私たちの生活を豊かな気持ちにしてくれます。侵食対策に使われる構造物にも、ほんの少しの装飾を加えることによって、大きな経済効果を生み出すことができるでしょう。サーファーは沖の人工リーフで波と戯れ、波の穏やかな内側の海岸で海水浴客が安らぐ。そんな住み分けが1つのビーチで達成できるのであれば、多くのものが得られるでしょう。サーフィンを楽しむ人達を目の当たりにした海水浴客が、自分も波に乗ってみたいと思う。足繁く海に通うようになり、そこに暮らしたいと考え始める。そんな環境を実現できるのは、関東では千葉県だけだと思います。2020年のオリンピックでサーフィンの試合が行われる千葉県にとって、九十九里浜の海岸侵食対策をどのような形で成功させたのかは、世界中が注目するニュースになるでしょう。そのためにも無粋で無骨な構造物による侵食対策ではなく、九十九里の景観を破壊しない侵食対策が必要なのです。

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【参考資料】
一宮の魅力ある海岸づくりについて
サ ー フ ィ ンに適するデルタ型リー フ周辺の波浪特性.pdf
クレセント型潜堤およびデルタ型リー フによるサーフィン共存のための波浪制御.pdf
デルタ型潜堤による津波の減災効果に関する実験的研究.pdf
三角形潜堤周辺の砕波を伴う波・流れの非線形数値計算.pdf
天端面に傾斜を設けた人工リーフ(多目的人工リーフ)による砕波と波浪制御に関する研究.pdf
多目的人工リーフ周辺の海浜地形変化の特性に関する研究.pdf

一宮の海岸侵食を防ぐ養浜計画について

2020年の東京オリンピックでサーフィンが正式種目に選ばれ、その試合会場に千葉県の一宮町(いちのみやまち)が選ばれました。しかし、全長66Kmに及ぶ九十九里浜の南に在る一宮の海岸は、深刻な海岸侵食の問題を抱えています。五輪試合会場の志田下(釣ヶ崎海岸)や、世界大会が行われた東浪見も浸蝕の被害を受けており、このまま侵食対策を施さなければ砂浜が失われてしまう事態に陥っています。一宮ではヘッドランドと呼ばれる縦と横の堤防が連結するT字型の構造物で砂の流出を食い止め今以上の海岸侵食を防ごうとしていますが、その構造と機能に加え、九十九里浜の景観が損なわれる問題が地域住民の間で持ち上がっているようです。

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このような諸問題から一宮では、町長と職員や技術者の他に、漁業関係・サーフィン関係・海水浴場関係などの人々を交えた「一宮の魅力ある海岸づくり会議」と題する話し合いの場が設けられ論議が交わされています。この会議での主な議題は海岸侵食対策に関するものが大半なのは当然ですが、T字型堤防のヘッドランドと、海岸に砂を直接搬入するサンドバイパスによる養浜に話題が集中しています。

九十九里の砂浜は主に、海食崖である北側の屏風ヶ浦と南側の太東崎が侵食されてできた砂が沿岸流に乗って漂砂となり運ばれることで形成されて来たと考えられています。しかし現在は海食崖の崩落を防ぐ護岸が築かれ、更に飯岡漁港・太東漁港・片貝漁港が海に突き出し漂砂を堰き止めてしまい、九十九里の大規模な海岸侵食が始まりました。

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ヘッドランドは残された海岸の砂が流出するのを防ぐために造られたものですが、このヘッドランドだけでは海岸の侵食を完全に食い止めることができず、砂を海岸に運び入れる養浜も合わせて行わなければいけないそうです。また、目の細かすぎる砂は波にさらわれ流れ出てしまう他に、ハマグリやナガラミといった貝類の生息にも悪影響を与えるため、その材質にも配慮する必要があるそうです。また、アカウミガメの産卵に必要なハマヒルガオが自生する条件も整えなければならず、それらの条件を全て満たす侵食対策は、困難の連続といった状況のようです。

ヘッドランドは1基建設するだけでは海岸侵食を防ぐ効果が乏しく、侵食が著しい箇所に複数設置する必要があります。この「ヘッドランド」という名前は倭国語で「岬」を意味し、縦と横の堤防が連結するT字型のヘッドランドは別名「人工岬」とも呼ばれています。ヘッドランドを2基並べた場合、その間にはポケットビーチが形成されます。つまり、人工岬で囲われた人工の入江、「人工湾」を造ることで砂の流出を防いでいます。しかし、この人工岬で囲われた人工湾には、構造上の欠陥が残されています。

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上の画像のように2号・3号堤に囲われた一宮海水浴場の中央には、新たに少突堤が築かれました。これは人工湾中央の侵食を緩和させる案として設置されたもので、この少突堤に砂を定着させようとする試みです。そこで、この人工岬で囲われた一宮海水浴場と、天然の岬で囲われた千葉県勝浦市にある守谷海水浴場とを比較してみましょう。

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ご覧のように、守谷海水浴場の中央は深くえぐれ、弧を描く汀線の砂浜が形成されています。それに対し一宮海水浴場の汀線は直線的であり、それ故、湾内中央の砂浜が深く侵食してしまうのです。この現象は研究者たちにも広く知られる事実であって、一宮海水浴場の砂浜は自然の力によって在るべき姿を形成しようとしている訳なのです。

そうであれば、夏に海の家が建つスペースや駐車場をセットバックさせ一宮海水浴場の砂浜が弧を描くように修正すれば、人工湾中央の海岸侵食は急速に弱まり、養浜に使われる砂を運ぶサンドバイパスの費用も大幅に削減できるはずです。ところが、侵食対策を行っている海側と、その背後にある砂防林とでは管轄する省庁が別々なため、いわゆる縦割り行政による柔軟な対応ができない状態になっているのです。これは各漁港や河川にも同じ問題があり、海岸侵食対策の速度を遅らせる原因にもなっているのです。しかし、これらの諸問題を行政側も理解しており、海岸侵食対策は新たな展開を見せようと動き出しています。

現在、一宮町が取り組んだ「一宮の魅力ある海岸づくり会議」は、九十九里浜に接する各市町村を含んだ「九十九里浜侵食対策検討会議」に発展しています。これらの取り組みが新たな侵食対策の方法を生み出す可能性もあり、目が離せません。なによりも、こうした話し合いには様々な知識と経験を持つ人々が集う必要性が高く、ヘッドランド工法による侵食対策を行っている研究者や技術者も、それを望んでいるのです。

一宮町のヘッドランドの大半はほぼ完成形に至っていますが、オリンピックの試合会場である志田下にある堤防は、まだ未完成のままです。ここにある堤防がどのような形になるのかは、いまだ未定のままですが、完成した堤防に嘆くのか喜ぶのかは、そこに携わる私たち一人一人に掛かっているといえるでしょう。ここはひとつ、志田下でサーフィンをするローカルもビジターも、この会議に参加してみてはどうでしょうか。

さて次回は、「一宮の魅力ある海岸づくり会議」にて交わされた、ヘッドランドの構造に関する話題を中心に、その可能性を考えてみようと思っています。興味のある方は是非ご覧になって下さい。

【参考資料】
一宮町 一宮の魅力ある海岸づくりについて
千葉県 第1回九十九里浜侵食対策検討会議
千葉県 南九十九里浜養浜計画
南九十九里浜一宮海岸のヘッドランド周辺の地形特性 pdf

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